ごめんねについて

金魚と熊が恋をした。
熊は金魚が大好きで、金魚も熊が大好きだった。
熊は山で生活していた。
金魚は池で生活していた。
熊は大好きな金魚に会いたくって、険しい山を降りては、金魚の住む池に会いに行った。
誰かを好きになると、こんなに楽しいものなんだと、笑った。

熊は、水に入ることができた。

金魚は熊がやってくるのがうれしかった。
会うたびにめいっぱいのおしゃれをした。
見せたいものや、聞いてほしい話で、頭の中がいっぱいになった。
そのうち、いつやって来るかわからない熊が待ちどおしくなった。
誰かを好きになると、こんなに嬉しいものなんだと、いきいきした。

金魚は、水から出られなかった。

金魚は熊の住む世界じゃ生きられないことを、ちゃんと知っていた。
だけどとってもとってもしあわせな気持ちだった。

ある時、熊と金魚はケンカをした。
ぱったりと熊が池に来なくなった。

熊は大好きな金魚と仲直りをしたかったけど、ごめんねを言うのがイヤだった。
金魚も熊と仲直りをしたかったけど、水から外に、出られなかった。

金魚は熊が来るのを待つしかなかった。
だけども、いくら待っても熊は来なかった。
今すぐ外に出て、山に行きたいけど我慢した。
水の中で頭がパンクするくらい我慢した。


ある日ついに、熊に会いに行こうとして金魚は水から飛び出してしまった。
だんだん呼吸が出来なくなって、地面の上を、バタバタはねた。
誰かを好きになると、こんなに苦しいものなんだと、金魚は泣いた。
そして、二度と動かなくなった。
金魚はごめんねを言えなかった。


その頃、熊の住む山には、鉄砲を持った人間がやってきていた。
たくさんの山の動物が、狙われて、殺された。
熊に鉄砲が、向けられた。人間が、笑った。

熊は自分が死ぬかもしれないと思った。
死ぬ前に金魚にごめんねを言おうと思った。
池に向かって必死で山をかけおりた。
そして動かない金魚を見つけた。
立ち尽くす熊の背中を、人間が撃った。
体が熱くなって血がいっぱいでた。
誰かを好きになると、こんなに痛いものなんだと、熊は泣いた。
熊もごめんねを言えなかった。


池のほとりに、二匹の死骸がならんでいた。
人間は、ごめんねを言わなかった。