与作について

与作は木を切る。ヘイヘイホー ヘイヘイホー

今日は雨が降って遊びにもいけなくなったので、おかげで「与作が木を切らないときの与作」を考えるはめになった。

与作は、ちょっとくらい雨が降ってても、手洗い・うがいを怠って風邪をひいてしまっても、
木を切った。毎日切った。
朝早く起きて、まだ日も昇りきらぬ寒いうちから仕事を始め、山の日が沈み始めるまで木を切った。
疲れたら握飯を食い、ヘイヘイホーを歌って着合いを入れた。
おかあさんが病気で倒れた時も、
恋人が去っていった日も、
飼っていた犬の死期が近いのに気がついたときでも、
黙々と、木を切りつづけた。
与作は余り考えなかった。
とてもよく考えて、とても上手に気にしないでいることができた。

与作の行動は当然、時として反感を買ったし、
与作もそれを良く知っていた。
依然として「とてもよく考えて、とても上手に気にしないでいる」様々な事が、とめどないことだということもよく知っていた。
与作は胸を突く哲学から逃げたかった。
自ら腹を抉らずに済むのであれば、それでいいと思ってしまうこともあった。

木を切る与作には、人を集める魅力があった。
愛想を尽かし去っていく人も、大勢いた。
とてもよく考えて、とても上手に気にしないでいられるのは、そんな人たちのおかげだと思っていた。


 
ある時、与作は木を切らなかった。

ちひろは、木を切らない与作は、木を切る与作のなんびゃくおくばいも かっこわるいなあとおもった。
ヘイヘイホー ヘイヘイホー!